#5 吉野林業の現在地とこれから
奈良県の吉野地域では川上村を発祥とする吉野林業が500年以上前から脈々と受け継がれています。吉野地域で育てられるスギやヒノキは年輪が密で比較的硬い木質が特徴です。また、丁寧な枝打ち・間伐を行うため節が少なく真っ直ぐに成長した木材が生産されます。こうして吉野杉・吉野檜(桧)はブランド材として広く認知され、自社仏閣をはじめ、高級建材として使われてきました。
しかし、外国産木材の活用が進んだ結果、競争力を失い徐々に市場価格は下落していきました。また、林業従事者の担い手が減少し高齢化が進んでおり、人の手が多分に介在する吉野地域では人材不足が顕著になっています。
吉野林業のその他の特徴として、植林部が急な傾斜地となっており、他の地域の林業と比較して運搬コストが高いことが挙げられます。路網と呼ばれる輸送用の道の整備が進んできていますが、まだまだ時間がかかりそうです。
これらの問題を解決し、未来に吉野林業を残し、発展させていくためには何ができるでしょうか。
日本全国に目を向けると間伐材や楢枯れ材などの従来用途が少ない木材を活用した商品化の事例が多数見受けられます。岡山県の西粟倉村では地域を上げて森林の育成とプロダクト開発を行い、相互に影響を与え持続可能な林業のあり方を提示しています。このように新しい木材の活用方法・林業経営のあり方が日本各地で芽吹いています。
吉野地域でも吉野杉や吉野檜(桧)を活用したプロダクト開発は行われていますが、木材業界は生産・流通・加工・販売と水平分業が主流であり、上流工程である生産者は原木市場に卸した後はあまり関与できていません。また加工・販売業者からも、生産者との距離があるように思われます。
木材生産者と加工・販売業者の心理的・物理的距離が近くなり、互いに協力し合う関係を築くことができれば、吉野林業の新たな道が見出せるのかもしれません。